我々の中にも、1980年にPTSD(心的外傷後ストレス障害)が精神障害分類システムに導入された時をいまだ覚えているものがいるだろう。戦争や性的暴行あるいは重大な事故といった外的状況によって引き起こされる、極端なストレスに対する精神的な反応を評価し治療する時に、このカテゴリーはどうしても必要だった。それ以来、PTSDに関する我々の知識は飛躍的に増大した。既存の文献とその臨床的意味をレビューし−特に既存のPTSD診断の意味と臨床的有用性を考慮に入れた上で−、ストレスと特に関連する障害群のICD-11 Working Groupは、ICD-11に複雑性心的外傷後ストレス障害(CPTSD)と呼ばれる新しいPTSDの兄弟診断を入れることを提案した。CPTSDは以前のICD-10の診断にある“破局体験後の持続的パーソナリティ変化(EPCACE)”に置き換わる予定である。 Complex Post-Traumatic Stress Disorder (CPTSD) for inclusion in the ICD-11. CPTSD is intended to replace the previous ICD-10 diagnosis “Enduring Personality Change after Catastrophic Experience” (EPCACE).
このEPCACEの診断にはあまり馴染みがないかもしれない−ごく僅かな国のある一部の精神科医と臨床心理士の間でのみ用いられている。ICD-10で述べられているように、EPCACEはICD-10診断のリストではPTSDとは関連していなかった。その中核症状は外傷と関連した世界に対する不信感、社会的引きこもり、空虚感や絶望感、回避、慢性的な恐怖感として記述されていた。
代わりに、“複雑性外傷”あるいは時には既に“複雑性PTSD”と呼ばれているが、これは過去20年間にわたり臨床場面で世界の多くの場所で代替診断名として使用されてきた。外傷性ストレス後の臨床状態に関して最も著名な初期の提唱者の一人であり、ボストンの精神科医であるJudith Lewis Herman博士は、彼女の代表作である「心的外傷と回復 (1992)」の中で、この複雑性の外傷に関連した診断について大規模に記述している。臨床的な短い描写と印象的な症例研究を用いて、彼女はPTSDとCPTSDを区別する手引を行った。中でも、Bessel van der Kolk博士などのような臨床家かつ研究者による複雑性外傷の概念への貢献にも馴染みがあるかもしれない。彼らの仕事がDSM-ⅣのEPCACEのような診断−“他に特定されない極度のストレス障害”(DESNOS)と呼ばれる−の導入につながったが、この構成概念はDSM-5では採用されなかった。
ストレスと特に関連する障害群のICD-11 Working Groupは、複雑性外傷の結果に関連する世界で最も優れた臨床実習について大規模な話し合いを行った。EPACEには実証的研究がほとんどない。既存の複雑性外傷の科学調査からは、様々に組み合わさったパターンの知見が生み出された。ICD-11精神および行動の障害の新診断ガイドラインを開発する重要な目的は臨床的有用性を高めることにあったため、Working Groupは臨床経験との合致し、基本的な科学的必要条件も満たす新しい概念を検証した。
ICD-11で複雑性PTSDについて現在提案されているものによって、既にこの新診断に関する相当量の研究が行われている。Global Clinical Practice Networkのストレスと特に関連する障害群のための実地調査はその概念の主要な検証で、あなたもこの国際規模の調査に参加しているかもしれない。複雑性PTSDに関する主な結果として、臨床家がPTSDと性状を区別でき、新しい診断がEPCACEのICD-10カテゴリーを凌ぐということがわかった。調査結果に基いて、Working Groupは、複雑性PTSDの診断ガイドラインを調査参加者に不明瞭であった課題を説明できるべく修正をした。国際データベースの分析から得られた知見がさらに示すように、複雑性PTSDは臨床的に有用で精神障害の診断マニュアルに科学的根拠をもって追加されている。 Global Clinical Practice Network field study for Disorders Specifically Associated with Stress was a major proof of the concept, and you may have participated in this international study. The main result concerning Complex PTSD was that clinicians were able to differentiate from PTSD and normality and that the new disorder outperformed the ICD-10 category of EPCACE. Based on the study results, the Working Group modified the diagnostic guidelines of Complex PTSD to address issues that appeared to have been unclear for study participants. As findings from various analyses of international datasets further suggest, Complex PTSD is a clinically useful and scientifically warranted addition to the diagnostic manual of mental disorders.