GCP.Network 研究の結果

ストレスと特に関連する障害群に関するオンラインフィールドスタディの要約

参加者

この調査は3カ国語で行われ、当時登録済みのGCPNメンバー中3669名が参加要件を満たし、かつ実施言語のうち1つを使用可能であった。1738名が調査を完了し、そのうち889名が英語、440名が日本語、409名がスペイン語で参加した。

参加者の特徴

平均年齢:46歳(SD~11歳)
平均経験年数:16年(SD~10年)
男女比: 60.5%:女性39.4%

1.

ICD-10よりも ICD-11ガイドラインを用いた方が、概して診断結果が一致しやすい。

ICD-11ガイドラインのストレスと特に関連する障害群(診断に必須の特徴、他の障害および正常との境界、付加的特徴を含む)について、構造および内容の面で提案された変更のために、ICD-10に含まれる同等の障害と比較して、診断要件がより明瞭になった。

2.

ICDおける複雑性心的外傷後ストレス障害の新設は有用と考えられる。

ストレスと特に関連する障害群に、複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)および遷延性悲嘆障害を含む2つの診断カテゴリが新設されている。複雑性PTSDは、PTSDの主症状に加え、感情のコントロールに関する困難の持続、自身または世界に対する否定的な思考の持続、人間関係上の困難を診断要件とする、PTSDと比較してより深刻な診断カテゴリとなっている。遷延性悲嘆障害は親しい人との死別に対する正常な喪の作業を超える病理学的な反応を表す。臨床家はそれぞれの診断の主要な症状をはっきりと認識し、診断することができており、両診断ともICD-10では診断が困難なケースをよく捉えていた。

しかし結果から、それぞれの診断に鑑別上の問題があることがわかった。複雑性PTSDについては、症状面での診断要件よりも、ストレス因の深刻さや遷延の程度を根拠に過剰診断する傾向がみられた。遷延性悲嘆障害については、正常な死別反応との区別においていくらか困難がみられた。これらの結果から、鑑別に関する情報がより明確となるよう、診断ガイドラインに改良が加えられた。

3.

参加者の反応がPTSDの診断ガイドラインの改良につながった。

ICD-11におけるPTSDの定義には、ICD-10と比較して、2つの変更点がある。1つは明らかな機能障害を診断要件とすることで、ICD-10ではこれを要件としていなかった。もう1つは再体験症状の定義の改良であり、ICD-11ではただ思い出すのは再体験とみなさず、今この瞬間に起きているかのように感じられるものだけを再体験とみなすとのことだった。フィールドスタディを行ったところ、この2つの変更点については表現が曖昧であるために解釈の困難が生じることが判明した。まず、再体験の問題については、スタディ実施時点の表記が再体験の認知上の側面のみに言及しており、情動的側面については言及がないという問題が表面化した。機能障害の表現については、機能障害の有無について判断するにあたり、機能を保ちつつも症状が妨げとなって大きな困難や苦痛を感じている場合も機能障害が生じているものとみなす、と定義を明文化するに至った。どちらの改善点も、調査に参加したGCPNメンバーのフィードバックを直接反映したものである。

FOR COMPLETE STUDY RESULTS

Keeley, J. W., Reed, G. M., Roberts, M. C., Evans, S. C., Robles, R., Matsumoto, C., Brewin, C. R., Cloitre, M., Perkonigg, A., Rousseau, C. Gureje, O., Lovell, A. M., Sharan P., & Maercker, A. (2016). Disorders specifically associated with stress: A case-controlled field study for ICD-11 Mental and Behavioural Disorders. International Journal of Clinical and Health Psychology, 16, 109-127. https://doi.org/10.1016/j.ijchp.2015.09.002

FURTHER READING:

Maercker, A., Brewin, C. R., Bryant, R.A., Cloitre, M., van Ommeren, M., Jones, L. M., Humayan, A., Kagee, A., Llosa, A. E., Rousseau, C., Somasundaram, D. J., Souza, R., Suzuki, Y., Weissbecker, I., Wessley, S. C., First, M. B., & Reed, G. M. (2013). Diagnosis and classification of disorders specifically associated with stress: Proposals for ICD-11. World Psychiatry, 12, 198-206. Doi: 10.1002/wps.20057 

Hansen, M., Hyland, P., Armour, C., Shevlin, M., & Elkit, A. (2015). Less is more? Assessing the validity of the ICD-11 model of PTSD across multiple trauma samplesEuropean Journal of Psychotraumatology, 6, 28766. Doi: 10.3402/ejpt.v6.28766

Bryant, R. A. (2012). Grief as a psychiatric disorder. British Journal of Psychiatry, 201, 9-10. Doi: 10.1192/bjp.bp.111.102889